追悼 Prince 私のマイフェイバリットアルバム10
プリンスが亡くなる約一か月前、西寺さんの「プリンス論」を手にしていた。本当に面白くてのめり込んで「若い人がこんな斬新なプリンス像を語るなんて」とびっくりしていた。同時に久しぶりにプリンスを聴く日々が続いた。そんな矢先のプリンスの悲報だった。こういう流れがあったために、他のレジェンドの死よりもはるかにショックが大きく、静かにアルバムを聴いて追悼する日々が続いた。
しかしプリンス、簡単に追悼させてくれない。なにしろアルバムの数が多くて、それも1枚が他のアーティストだと2枚組のようなボリュームであり、それぞれが圧倒的な密度をもっているために、プリンスの死から2か月半たった今も、プリンスを聴き込んでいる。新たな発見だらけだったし、彼の奇声を聴いて笑ったり、パープルレインに涙したり、いや本当にプリンスって最高、較べられるアーティストなんていないよという気分がとりついたままである。プリンス好きの友人が周りにいれば良かったのだが、80年代以降熱心に聞き込んでいる人も少なく、仕方ないので自分のあふれる思いをブログに書いて納得しようと思っています。やっぱりアルバムを語るのが一番楽しいので、マイフェイバリットTOP10、あえて順位をつけて紹介します。同士に喜んでもらえたらうれしいです。
10位「 For You」
デビューアルバムにはそのアーティストのすべてがある、とはよく言われること。実際ファーストアルバムが最高傑作というアーティストやバンドは本当に多い。プリンスのファーストは決してアーティストのすべてがあるわけではないし、80年代後半の傑作の森に比べるべきアルバムではないかもしれない。しかしやはりデビューアルバムだけが持つ煌きとかけがえのなさはしっかりと持っている。このアルバムはきっとデビューにあたって入念に準備したのだろうと思わせるすべての楽曲の良さ、計算されたアレンジと演奏(すべて一人で)がきらきらと展開している。最大の特徴は「心地よさ」である。プリンスは例えばサインオブザタイムス」のようなアーティスティックで多少難解なアルバムであったとしても、聴き心地良さを生涯失わなかった人である。ミュージックマガジンで二木信さんが「フリーソウル的」と評しているが、その通りだと思う。日本初のフリーソウルから連想される、グルーヴィーでひたすら心地よいといったコンセプトはこのアルバムにぴったりの賛辞である。この後のプリンスは毒とエキセントリックさを存分に振りまいていくので、ファーストアルバムでの気持ちよさは貴重だろう。「プリンスはどのアルバムから聴いたらいい?」というのもよくある重要な問いですが、ぜひファーストアルバムからどうぞ。
9位「Rainbow Children」
プリンスに再び戻ってからの第一弾。宗教とのかかわりなどが取り沙汰されていますが、実に軽やかでまったく気負いのない自然体な1枚。テクニシャン揃いのバンドが存分にその手腕を発揮し、素晴らしいアンサンブルを繰り広げる。時にJazzも顔をのぞかせ、プリンスでもっともJazzyなアルバムといってよいだろう。これ聴いてると時々、スティーリーダンを聴いてるような錯覚に陥る。プリンスの毒はまったくないけれど、粒よりの楽曲とスムースな演奏に酔いしれてしまう。このアルバム音楽誌で出会ったのではなくて、オーディオ誌の新作レビューで見つけて購入した。オーディオ好き、Jazz好きには最も評判の良いアルバム。
8位「Chaos And Disorder」
前記の西寺さんの本で、「最も評価が低い」と言われている1枚。私は大好きです。それに大々的に推薦もします。もちろん出来の悪いものほどカワイイみたいな心理ではなくて、傑作として。西寺さんがワーナーとプリンスの確執の中で、関係の悪さからプリンスが自己制御ができず作成されたとされていますが、これ自体はそうなのかもしれないです。ただネットとかでよく見る「乱暴」「やっつけ感」「雑」「ワーナーへの当てつけ」などは、私は額面通り受け取っていません。クロスビートが追悼本の中で、興味深いことを書いていますが、プリンスはこのアルバムを売るためのプロモーションに協力していたこと、このロック感はやけくそではなくて、当時親交のあったレニークラヴィッツから影響をうけたストレートサウンドであることを言及している。このアルバムまず曲が断然良い。R&Bやファンクの観点からは「やっつけ感」に思えるかもしれませんが、ロック的観点に立つと、なにかブリティッシュロックの香りがするチャーミングなメロディが頻発し、実にメロディックで聴きやすい。またアレンジもホーンもコーラスもバンドも実はそれなりに緻密。というかやはりブリティッシュロックバンドなどにくらべたら超緻密。これが2日間のレコーディングなんてありえない、スーパーテクニックとアンサンブルである。ブリティッシュロック好きな人がプリンス入門するなら、このカオスアンドディスオーダー、お薦めです。ちなみに音悪くなんかないです。むしろライブアルバムなのでドラムは実に生々しく録れているし、他の作品よりもスタジオの空気感などはリアルに感じ取れる。いいオーディオで聴こう。
7位「HITNRUN Phase Two」
ミュージックマガジンの最新号で宮子和眞さんが「25年間の最高傑作」と評しているが、これは本当に凄いアルバム。全曲粒ぞろいの楽曲。でもアルバムの凄さを決定つけているのはなんといっても1曲目の「Baltimore」だろう。この曲のもつ気品と優しさはプリンスの最後にして新境地だったような気がする。このアルバムはここ数年のシングルを集めたものを中心に編集しているようなのだが、不思議なくらい一貫性がある。その一貫性をもたらしているものは、普遍的なR&B/ソウルミュージックへの接近なのだと感じている。ミュージコロジーもクラシックなブラックミュージックへの回帰といわれたような気もするが、ファンクの要素よりももっと歌ものソウルのような柔らかいタッチで、音作りはすべて暖かい音の生バンドである。そういえばファーストアルバムもクラシックなソウルアルバム風であったけれども、すべて一人で演奏な上、ホーンセクションはすべてシンセサイザーへと変換されていた。それが彼独特のミネアポリスサウンドにつながっていったのだが、ここでのプリンスはそういう個性的なチャレンジではなくてもっと普遍的なソウルミュージックに身を任せたかのようだ。どの曲も生き生きして自然に心に体に染み込んでくる。いわゆる「ブラックミュージックファン」ってプリンスが得意ではない人も結構いると思う。そんな方にもこのアルバムは推薦できる、ソウルなプリンスが堪能できる。このアルバムが最後なんて全くイメージできないけれど、最後にして大傑作なのがうれしいし、悲しい。
6位「Love Symbo」
あのへんてこなサインは私のPCのフォントにないので、Love Symbolとさせてもらうしかない。このアルバムに関してはプリンスにたいして謝りたい気持ちでいっぱいだ。このアルバムが発表された当時、多くの人が「クオリティは高いのかもしれないけど、プリンスは時代についていけてない」と判断してしまっていた。このころからプリンスを聴かなくなったという周りの友人も多かった。私もそうだった。プリンスはこの後もミュージコロジーまではリアルタイムで聴いていたけれど、どうも90年代のアルバムは面白くなくなった気がしていた。仕方ないのかもしれない。時代がニルヴァーナ、ドクタードレやプライマルスクリームとかだったのだから。そういうあからさまにドラックの匂のある音楽が好まれる時代にプリンスは高品質でテクニックがあって、暖かいバンドサウンドでアルバムを70分越えで作成していたのだから(すべてが当時の流行とは相性が良くなかった)。プリンスの音楽がもっと時代を超えて楽しめるものだと、その時の私はわかりもしなかった。今の耳で聴くとこのアルバムは素晴らしい。様々な音楽スタイルが違和感なく同居し、生き生きとして生命感にあふれている。苦労したであろうヒップホップへの対応も見事なバンドサウンドでの再現に成功している。担当エンジニアも前作くらいから変わったということであるが、80年代までの空気感とは全く違う生で暖かくていわゆるハイファイなサウンドが充満している。音がとっても良い。プリンスが亡くなってからもっとも再評価したのがこの作品。前作くらいからプリンスをあまり聴かなくなってしまったようなコアのファンにこそまた聴いてほしいアルバムだ。
5位「Lovesexy」
ここから5枚は80%以上の人がこの5枚を選ぶに違いない、80年代プリンス全盛期の大傑作群。まずはラブセクシー。ジャケットに関していえば、全アルバムでこれが一番好きだ。狂気のようでなんともきれいな紫の色合いが気に入っている。しかし当時ブラックアルバムが封印されて大騒ぎになり、ブラックアルバム聴きたいなあ(ブートレグは聴かず、のちに出た正式版を手に入れました)と思っていたところのこの作品。でも最初聴いた時は本当に感動したなあ。これならブラックアルバムいらないやと思いました。これはタイトル通りのLoveとSexyが合体したなんともポップでユーモアのある味わいの作品だと思う。強制でアルバムをすべて聞かせる仕組みもプリンスの音楽への姿勢が伝わり感心した覚えがある。圧縮音源をシャッフルで気ままに聴くスタイルももちろんありですが、私はラブセクシーが提案したこのアルバムごと聴くというスタイルにプリンスの真骨頂を感じる。逆に言うとそれだけの超ハイクオリティーの作品だからこそ提案できるスタイルだけど。プリンスのグラミー賞でのプレゼンテーション「アルバムって大事だ」に感動した人は、ラブセクシーを聴くこと。凄い以外感想がないので次に行きます。
4位 「Purple Rain」
パープルレインを4位とかにするとかっこつけのように思われて嫌なので、言い訳を。もちろん1位にして良いのです。「プリンスの最初に聴くべき一枚は?」ってファーストだとかカオスアンドディスオーダーだとか好きかって言いましたが、ハイ、もちろんパープルレインです。これアルバムトップ10だからいろいろ迷いますが、プリンス名曲トップ10て全然面白くないと思う。だって、「Let’s go crazy」「When doves cry」「I would die for you」「Purple rain」これ1つも落とせないでしょ。このアルバムから4曲もノミネートされてしまうので。プリンスはどんなに多作で傑作が豊富でも、プリンスといえばパープルレインという決定的なイメージを持つことができた。このことはとても良かったと思う。それはあの伝説のライブ「アメリカンフットボールハーフタイムショー」を見ればわかる。
3位 「Sign of the Times」
このアルバムは当初から熱狂して最高傑作と叫ぶ人と、難解でとっつきにくいという人に評価が分かれていたように思う。前者のほうが圧倒的に多くこのアルバムはあらゆる角度から言及されつくしてきたように感じる。それだけのボリュームと密度、芸術性にあふれていたからだろう。私は実は難解派で最初よくわからなかった。3年くらいかけて大好きになり、今では2枚組が長く感じなくなってきた(ダウンロードやストリーミング時代だとこういうボリュームのアルバムはますます聴かれなくなるだろう)。このアルバムは曲というより、この形容しがたい密度の高い圧縮されたような、あるいは破裂しそうな音の凄みが最大の魅力である。このアルバムを生演奏した映像作品も出ていて、そちらも大変楽しい。だけれどあのライブでのノリノリで楽しい演奏よりもアルバムでの異常な緊張感のある演奏のほうが好きだ。まさに80年代のアルバム芸術がこの1枚だろう。
2位 「Around the World in a Day」
ロッキンオンで渋谷陽一さんが「何十年へたすると何百年も語り継がれるポップ史上に燦然と輝くとんでもないアルバム」と評していたが、本当にその通りだと思います。パープルレインからうって変わって、引き締まったタイトな音でありがながらも、サイケデリックな幻想感も併せ持つこの音世界はジミヘンサウンドと同じように、もう再現されることはないだろう。楽曲もパープルレインに次ぐポップで普遍性のある作品が多い(ペイズリーパーク、ラズベリーベレー、ポップライフ等)楽曲が可愛くて幻想的なところが個人的に好きだ。ジャケットも素晴らしい。
1位 「Parade」
これは西寺さんの本でもマイフェイバリットに挙がっていたけど、私も同じ。プリンスでもっとも好きな1枚となるとパレードかな(あるいはアラウンドザワールドインアデイ)。パレードに関しては80年代当時、ミュージックマガジンの故中村とうようさんが「プリンスにとっての「ジョンの魂」」と評価して、個人的にはその評価がいまだに一番琴線に触れている。いろいろなものをそぎ落としてシンプルに空間を響き渡らせ、自己をさらけ出したかのようなスタイルがそのような評につながったのだろうか。響きはシンプルだけれど、アレンジやビートは実際にはとても多彩で、オーケストラやホーンを絡めた多様なビートアレンジも実に素晴らしいし、リサ&ウェンディによるコーラスも心地よい。
しかし、本当に自分で書いていると止まらない。いつか今度、11位―20位までも書いてみたいな。プリンス、本当に素敵な音楽をありがとう。今はまだ悲しみや寂しさが癒えないけれど、プリンスが残してくれた膨大な作品は宝となって輝き続けている。追悼プリンス。安らかに眠りください。
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