2016年7月10日 (日)

追悼 Prince 私のマイフェイバリットアルバム10

 プリンスが亡くなる約一か月前、西寺さんの「プリンス論」を手にしていた。本当に面白くてのめり込んで「若い人がこんな斬新なプリンス像を語るなんて」とびっくりしていた。同時に久しぶりにプリンスを聴く日々が続いた。そんな矢先のプリンスの悲報だった。こういう流れがあったために、他のレジェンドの死よりもはるかにショックが大きく、静かにアルバムを聴いて追悼する日々が続いた。

 しかしプリンス、簡単に追悼させてくれない。なにしろアルバムの数が多くて、それも
1枚が他のアーティストだと2枚組のようなボリュームであり、それぞれが圧倒的な密度をもっているために、プリンスの死から2か月半たった今も、プリンスを聴き込んでいる。新たな発見だらけだったし、彼の奇声を聴いて笑ったり、パープルレインに涙したり、いや本当にプリンスって最高、較べられるアーティストなんていないよという気分がとりついたままである。プリンス好きの友人が周りにいれば良かったのだが、80年代以降熱心に聞き込んでいる人も少なく、仕方ないので自分のあふれる思いをブログに書いて納得しようと思っています。やっぱりアルバムを語るのが一番楽しいので、マイフェイバリットTOP10、あえて順位をつけて紹介します。同士に喜んでもらえたらうれしいです。

10位「 For You
 デビューアルバムにはそのアーティストのすべてがある、とはよく言われること。実際ファーストアルバムが最高傑作というアーティストやバンドは本当に多い。プリンスのファーストは決してアーティストのすべてがあるわけではないし、
80年代後半の傑作の森に比べるべきアルバムではないかもしれない。しかしやはりデビューアルバムだけが持つ煌きとかけがえのなさはしっかりと持っている。このアルバムはきっとデビューにあたって入念に準備したのだろうと思わせるすべての楽曲の良さ、計算されたアレンジと演奏(すべて一人で)がきらきらと展開している。最大の特徴は「心地よさ」である。プリンスは例えばサインオブザタイムス」のようなアーティスティックで多少難解なアルバムであったとしても、聴き心地良さを生涯失わなかった人である。ミュージックマガジンで二木信さんが「フリーソウル的」と評しているが、その通りだと思う。日本初のフリーソウルから連想される、グルーヴィーでひたすら心地よいといったコンセプトはこのアルバムにぴったりの賛辞である。この後のプリンスは毒とエキセントリックさを存分に振りまいていくので、ファーストアルバムでの気持ちよさは貴重だろう。「プリンスはどのアルバムから聴いたらいい?」というのもよくある重要な問いですが、ぜひファーストアルバムからどうぞ。

9位「Rainbow Children
 プリンスに再び戻ってからの第一弾。宗教とのかかわりなどが取り沙汰されていますが、実に軽やかでまったく気負いのない自然体な
1枚。テクニシャン揃いのバンドが存分にその手腕を発揮し、素晴らしいアンサンブルを繰り広げる。時にJazzも顔をのぞかせ、プリンスでもっともJazzyなアルバムといってよいだろう。これ聴いてると時々、スティーリーダンを聴いてるような錯覚に陥る。プリンスの毒はまったくないけれど、粒よりの楽曲とスムースな演奏に酔いしれてしまう。このアルバム音楽誌で出会ったのではなくて、オーディオ誌の新作レビューで見つけて購入した。オーディオ好き、Jazz好きには最も評判の良いアルバム。

8位「Chaos And Disorder
 前記の西寺さんの本で、「最も評価が低い」と言われている
1枚。私は大好きです。それに大々的に推薦もします。もちろん出来の悪いものほどカワイイみたいな心理ではなくて、傑作として。西寺さんがワーナーとプリンスの確執の中で、関係の悪さからプリンスが自己制御ができず作成されたとされていますが、これ自体はそうなのかもしれないです。ただネットとかでよく見る「乱暴」「やっつけ感」「雑」「ワーナーへの当てつけ」などは、私は額面通り受け取っていません。クロスビートが追悼本の中で、興味深いことを書いていますが、プリンスはこのアルバムを売るためのプロモーションに協力していたこと、このロック感はやけくそではなくて、当時親交のあったレニークラヴィッツから影響をうけたストレートサウンドであることを言及している。このアルバムまず曲が断然良い。R&Bやファンクの観点からは「やっつけ感」に思えるかもしれませんが、ロック的観点に立つと、なにかブリティッシュロックの香りがするチャーミングなメロディが頻発し、実にメロディックで聴きやすい。またアレンジもホーンもコーラスもバンドも実はそれなりに緻密。というかやはりブリティッシュロックバンドなどにくらべたら超緻密。これが2日間のレコーディングなんてありえない、スーパーテクニックとアンサンブルである。ブリティッシュロック好きな人がプリンス入門するなら、このカオスアンドディスオーダー、お薦めです。ちなみに音悪くなんかないです。むしろライブアルバムなのでドラムは実に生々しく録れているし、他の作品よりもスタジオの空気感などはリアルに感じ取れる。いいオーディオで聴こう。

7位「
HITNRUN Phase Two
 ミュージックマガジンの最新号で宮子和眞さんが「25年間の最高傑作」と評しているが、これは本当に凄いアルバム。全曲粒ぞろいの楽曲。でもアルバムの凄さを決定つけているのはなんといっても1曲目の「
Baltimore」だろう。この曲のもつ気品と優しさはプリンスの最後にして新境地だったような気がする。このアルバムはここ数年のシングルを集めたものを中心に編集しているようなのだが、不思議なくらい一貫性がある。その一貫性をもたらしているものは、普遍的なR&B/ソウルミュージックへの接近なのだと感じている。ミュージコロジーもクラシックなブラックミュージックへの回帰といわれたような気もするが、ファンクの要素よりももっと歌ものソウルのような柔らかいタッチで、音作りはすべて暖かい音の生バンドである。そういえばファーストアルバムもクラシックなソウルアルバム風であったけれども、すべて一人で演奏な上、ホーンセクションはすべてシンセサイザーへと変換されていた。それが彼独特のミネアポリスサウンドにつながっていったのだが、ここでのプリンスはそういう個性的なチャレンジではなくてもっと普遍的なソウルミュージックに身を任せたかのようだ。どの曲も生き生きして自然に心に体に染み込んでくる。いわゆる「ブラックミュージックファン」ってプリンスが得意ではない人も結構いると思う。そんな方にもこのアルバムは推薦できる、ソウルなプリンスが堪能できる。このアルバムが最後なんて全くイメージできないけれど、最後にして大傑作なのがうれしいし、悲しい。

6位「
Love Symbo」
 あのへんてこなサインは私のPCのフォントにないので、Love Symbolとさせてもらうしかない。このアルバムに関してはプリンスにたいして謝りたい気持ちでいっぱいだ。このアルバムが発表された当時、多くの人が「クオリティは高いのかもしれないけど、プリンスは時代についていけてない」と判断してしまっていた。このころからプリンスを聴かなくなったという周りの友人も多かった。私もそうだった。プリンスはこの後もミュージコロジーまではリアルタイムで聴いていたけれど、どうも90年代のアルバムは面白くなくなった気がしていた。仕方ないのかもしれない。時代がニルヴァーナ、ドクタードレやプライマルスクリームとかだったのだから。そういうあからさまにドラックの匂のある音楽が好まれる時代にプリンスは高品質でテクニックがあって、暖かいバンドサウンドでアルバムを70分越えで作成していたのだから(すべてが当時の流行とは相性が良くなかった)。プリンスの音楽がもっと時代を超えて楽しめるものだと、その時の私はわかりもしなかった。今の耳で聴くとこのアルバムは素晴らしい。様々な音楽スタイルが違和感なく同居し、生き生きとして生命感にあふれている。苦労したであろうヒップホップへの対応も見事なバンドサウンドでの再現に成功している。担当エンジニアも前作くらいから変わったということであるが、80年代までの空気感とは全く違う生で暖かくていわゆるハイファイなサウンドが充満している。音がとっても良い。プリンスが亡くなってからもっとも再評価したのがこの作品。前作くらいからプリンスをあまり聴かなくなってしまったようなコアのファンにこそまた聴いてほしいアルバムだ。

5位「
Lovesexy」
 ここから5枚は80%以上の人がこの5枚を選ぶに違いない、80年代プリンス全盛期の大傑作群。まずはラブセクシー。ジャケットに関していえば、全アルバムでこれが一番好きだ。狂気のようでなんともきれいな紫の色合いが気に入っている。しかし当時ブラックアルバムが封印されて大騒ぎになり、ブラックアルバム聴きたいなあ(ブートレグは聴かず、のちに出た正式版を手に入れました)と思っていたところのこの作品。でも最初聴いた時は本当に感動したなあ。これならブラックアルバムいらないやと思いました。これはタイトル通りのLoveSexyが合体したなんともポップでユーモアのある味わいの作品だと思う。強制でアルバムをすべて聞かせる仕組みもプリンスの音楽への姿勢が伝わり感心した覚えがある。圧縮音源をシャッフルで気ままに聴くスタイルももちろんありですが、私はラブセクシーが提案したこのアルバムごと聴くというスタイルにプリンスの真骨頂を感じる。逆に言うとそれだけの超ハイクオリティーの作品だからこそ提案できるスタイルだけど。プリンスのグラミー賞でのプレゼンテーション「アルバムって大事だ」に感動した人は、ラブセクシーを聴くこと。凄い以外感想がないので次に行きます。

4位 「
Purple Rain」
 パープルレインを4位とかにするとかっこつけのように思われて嫌なので、言い訳を。もちろん1位にして良いのです。「プリンスの最初に聴くべき一枚は?」ってファーストだとかカオスアンドディスオーダーだとか好きかって言いましたが、ハイ、もちろんパープルレインです。これアルバムトップ10だからいろいろ迷いますが、プリンス名曲トップ10て全然面白くないと思う。だって、「Let’s go crazy」「When doves cry」「I would die for you」「Purple rain」これ1つも落とせないでしょ。このアルバムから4曲もノミネートされてしまうので。プリンスはどんなに多作で傑作が豊富でも、プリンスといえばパープルレインという決定的なイメージを持つことができた。このことはとても良かったと思う。それはあの伝説のライブ「アメリカンフットボールハーフタイムショー」を見ればわかる。

3位 「
Sign of the Times」
 このアルバムは当初から熱狂して最高傑作と叫ぶ人と、難解でとっつきにくいという人に評価が分かれていたように思う。前者のほうが圧倒的に多くこのアルバムはあらゆる角度から言及されつくしてきたように感じる。それだけのボリュームと密度、芸術性にあふれていたからだろう。私は実は難解派で最初よくわからなかった。3年くらいかけて大好きになり、今では2枚組が長く感じなくなってきた(ダウンロードやストリーミング時代だとこういうボリュームのアルバムはますます聴かれなくなるだろう)。このアルバムは曲というより、この形容しがたい密度の高い圧縮されたような、あるいは破裂しそうな音の凄みが最大の魅力である。このアルバムを生演奏した映像作品も出ていて、そちらも大変楽しい。だけれどあのライブでのノリノリで楽しい演奏よりもアルバムでの異常な緊張感のある演奏のほうが好きだ。まさに80年代のアルバム芸術がこの1枚だろう。

2位 「
Around the World in a Day」
ロッキンオンで渋谷陽一さんが「何十年へたすると何百年も語り継がれるポップ史上に燦然と輝くとんでもないアルバム」と評していたが、本当にその通りだと思います。パープルレインからうって変わって、引き締まったタイトな音でありがながらも、サイケデリックな幻想感も併せ持つこの音世界はジミヘンサウンドと同じように、もう再現されることはないだろう。楽曲もパープルレインに次ぐポップで普遍性のある作品が多い(ペイズリーパーク、ラズベリーベレー、ポップライフ等)楽曲が可愛くて幻想的なところが個人的に好きだ。ジャケットも素晴らしい。

1位 「
Parade」
 これは西寺さんの本でもマイフェイバリットに挙がっていたけど、私も同じ。プリンスでもっとも好きな1枚となるとパレードかな(あるいはアラウンドザワールドインアデイ)。パレードに関しては80年代当時、ミュージックマガジンの故中村とうようさんが「プリンスにとっての「ジョンの魂」」と評価して、個人的にはその評価がいまだに一番琴線に触れている。いろいろなものをそぎ落としてシンプルに空間を響き渡らせ、自己をさらけ出したかのようなスタイルがそのような評につながったのだろうか。響きはシンプルだけれど、アレンジやビートは実際にはとても多彩で、オーケストラやホーンを絡めた多様なビートアレンジも実に素晴らしいし、リサ&ウェンディによるコーラスも心地よい。

 しかし、本当に自分で書いていると止まらない。いつか今度、11位―20位までも書いてみたいな。プリンス、本当に素敵な音楽をありがとう。今はまだ悲しみや寂しさが癒えないけれど、プリンスが残してくれた膨大な作品は宝となって輝き続けている。追悼プリンス。安らかに眠りください。

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2016年5月 2日 (月)

「namie amuro LIVEGENIC 2015-2016」 Blu-ray/ DVD

安室奈美恵の最新ツアーを収めたDVD/Blu-rayが最高にカッコよくて何回もリピートして見ている。

安室さんは、自身のライブ活動を自分の最高の表現の場ととらえているので、アムロの音楽
/ダンスを楽しみたい場合はまずライブに参加のをお薦めする。アーティストにも様々なタイプがあり、ライブが得意な人も苦手な人もいるが、アムロの場合得意不得意ではなく、観客の存在を必要とするタイプの表現者だ。観客の声援や歓声でなにも曲構成が変わったり演奏が変わったりするわけではない。でも観客とのインタラクティブなコミュニケーションを通じてこそ自身の表現力を最高度に完成させていくのがアムロである。アムロがテレビに出ないのはもちろん余計な情報を省いてカリスマ性を高めていく目的があるだろうし、単にしゃべりが苦手とかもあるだろう。でもテレビには自分のライブを楽しみに見に来た観客不在ということがあるのだと思う。観客不在だと自身の最高の姿を見せられない、そのような動機が働いているのではないか。

そんなアムロだからライブを収めた
DVDBlu-rayはあくまでライブの補助的なもの、ライブに参加した楽しさを追憶するまたは見れなかった細部を確認するものと捉えていた。でもこのLIVEGENICBlu-rayは一つのパッケージ作品としてとても素晴らしい。LIVEGENICのツアーには2度ほど参加して楽しませてもらったけれども、このBlu-ray、実際のライブより優れている部分があるのではと思わせるほど。

まず映像が圧倒的にスタイリッシュであること。光のシャワーというくらい、大量の色彩を放つ照明と美しいコスチュームとクールなダンスが交差していく映像はその美しさだけで引き込まれてしまう。ファンからアムロへの最高の賛辞の一つである「アスリート」という言葉がパッケージの宣伝文句に使用されている。でもこの
Blu-rayの場合「アスリート」の響きからくる、引き締まって運動量を誇示するようなものではなく、もっと洗練された構成美のようなイメージである。

例えば「
Say the Word」。これをYouTubeなどや所有している昔のDVDなどと比べてみると面白い。昔はコスチュームもまるでジャージのような、それこそアスリート風、あるいはストリート風といったほうがふさわしいだろうか。そこにはHipHopダンスの影響を受けた、運動量豊富でアスリートのような動きがみてとれる。それに比較して、このLIVEGENICでの映像は、もっと空間を生かした柔軟なダンスであり、アムロだけでなくダンサーと一体になって構成の見事さを表現している。アスリートのような厳しさよりも、いろいろなものをそぎ落とした後の「洗練」を感じる。

ちなみに映像作品として意図的にそぎ落とされたものの一つに観客の大声援がある。また「洗練」さや「構成美」を映し出すために、時に全体ショット、空間を生かしたショットが多用される。アマゾンなどで良くない評価を見かけるけれど、この
2点が逆に熱気を感じないと捉えている人も多いのかもしれない。でもこの「構成美」を意識したカット割りはそれまでの映像作品になかった素晴らしさを獲得している部分もあると思う。

初音ミクとのコラボ「
B Who I Want 2 B」はCDで聴いていたときは良さがまるで分からず、ライブでどう展開するのか心配だったけれど、この映像作品ではまるでミュージカルショーのような楽しさを披露している。その華やかな演出をこの「カット割り」は実によく捉えている。階段の上から下まで6人の女性ダンサーと安室が一列に並んでダンスを流れで展開してく、たったそれだけのことだけれど、このカメラショットはその展開の仕方をよく映し出している。ダンサーが右から左へ、右か左へポップにダンスが繰り広げられていく様を、ステージを広く広角に映し出すことで楽しさと構成のきめ細やかさを同時に表現しているのが分かる。

こういうカメラ割りにより
LIVEGENICがアムロにとってまた新しい挑戦であることがくっきり表されている。それはこれがアムロによる「自身のEDMの在り方」の提示である。冒頭の照明がアップでぼやけており、「ドクンドクン」という心拍音が提示され、その後重低音と光のシャワーがやってくるシーン。また後半オレンジの光が重なって舞台を覆いつくすシーンなど、間違いなく昨今のEDMパーティーを参考にして、自分のライブに反映したのだろう。アムロはこういうEDMの在り方を自分なりにアレンジして、EDMをスタイリッシュに、洗練させ提示したというのがこの映像からよくわかるのだ。実際のライブはもっと大歓声で、重低音が効いており、スタイリッシュというよりダンスの躍動感と観客とアムロとのコミュニケーションから生まれる祝祭感がステージを包んでいた。

でもこの映像作品からはあの時に把握しきれなかったアムロの方向性を感じることができる。それがアムロ流のスタイリッシュ
/洗練されたEDMライブであり、その気持ちよさがライブとは別種のものでこれはこれで最高に気持ちいい。アムロ流EDMはライブ後半、「Black Make Up」から「Fashionista」の流れで頂点に達する。ここは本当に凄い。CDで「Genic」を発表した際、アムロはこのようなライブ後半の爆発的なステージをすでにイメージできていたのではないだろうか。ダンス、歌唱、照明、ダンサーとの一体感、すべてがアムロ音楽の頂点の瞬間だったような気がする。

このBlu-rayで何度でも再現できるのがうれしい。本当に一人でも多くの安室奈美恵ファンに見てほしい傑作である(ちなみに最も好きなパフォーマンスはTime Has Comeですね。セイワセイワセイワのとこのダンスは病みつきになります)。

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2016年4月 5日 (火)

アキュフェーズ修理に対する回答です

Yotappeさん、せっかくご質問いただいたのに、半年も回答せず申し訳ありませんでした。ブログを見てみると最後に更新したのが3年前なんですね。本当にびっくりです。3年前なんてほとんど昨日のことのようです。

さてご質問いただいたアキュフェーズのサポートの値段ですが、アキュフェース社のHPに修理料金概算見積表が載っております。ぜひそちらをご参照ください。HPに載っているのは参考価格で、個別の状態に応じてサポートをカスタマイズしてくれます。私の場合、DP-77の読み取り問題、トレイの出し入れ不具合だったのですが、アキュフェーズ社からは2段階くらいの提示がありました。今起こっている問題を完全に対処する(オーバーホールメンテナンス)、そこまではしないで、困っている部分だけを優先的に対処する、です。私はオーバーホールメンテナンスを選択しました。

電話できめ細かに状態を聞いていただけるし、的確な改善プランを提示してくれ、メンテナンスをお願いした後も素早く引き取り、修理、配達をしていただけます。繊細なオーディオ商品を扱う見本のような対応だと思います。最も驚いたのは、修理後届けられた製品ですね。全く新品同様となって戻ってきました。戻ってきたDP-77を聴いて、「ああ、自分は多少劣化したまま聴いていたのだなあ」とすぐに思いました。購買当初のパフォーマンスを取り戻せましたよ。凄いことですよね。点検修理で新品みたいになって帰ってくるなんて。

この3年間の間に、実はDP-77を下取りに出して同じアキュフェーズのSACDプレーヤーDP-720を新たに購入しました。私のDP-77に関しては、下取りに出したお店が中古製品としてまた販売しておりましたがすぐに売れてしまいました。他にもDP-77が1台売っていましたが、私のDP-77を買った人は本当にお得だと思いますよ。メンテナンスしたてですから。新しいオーナーの方が大切に聴いてくれているとうれしいですね。

Yotappeさんの40年ぶりのオーディオライフが素晴らしい体験になりますように。私もしょっちゅうとオーディオでモーツァルトしています(最近亡くなられた指揮者/リコーダーのブリュッヘンがお気に入りです)。

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2013年7月19日 (金)

「712 DAY PARTY Tour 2013 Shonen Knife 少年ナイフ」 2013年7月14日 渋谷O-NEST

 少年ナイフ恒例の712DayParty、ツアー最終日の渋谷に参加。凄い盛り上がりに圧倒され、結成から30年もたった今もこれほどの人が熱狂して、支持されている少年ナイフに深い感銘を受けた。いわゆる邦楽ロックシーンみたいなところに属していない少年ナイフは若い人からアクセスにしくい存在かもしれない。同時代への応援/絆ソングみたいなものもあまりないので、音楽に重要な同時代性を見つけにくいかもしれない。でも少年ナイフの音楽には代わりにかけがえのない普遍性がある。その普遍性は時代や、男女、国を超えて支持されるものだと信じている。とはいえこの音楽不況時代に実際これだけの若い人も含む少年ナイフファンがたくさんいて熱狂している姿を見るとびっくりするし、どんな時代でもみんな自分なりの音楽体験を探しているのだなとうれしくなったりする。

 少年ナイフのライブ体験はいつでも素晴らしいものだけれど、ここ1年くらいはそのライブパフォーマンスにさらに深く磨きをかけてきている。エレキギター1本、ベース、ドラムと歌、コーラスという生演奏ではポピュラーミュージックでもっともシンプルな形態であるため、単調になりやすい面もある。でも少年ナイフは地道としかいいようがない努力でアンサンブルに磨きをかけ楽曲の向上に努め、3人であってもそのサウンド、歌が生まれたばかりの新鮮なサウンドになるようライブを重ねてきた。その成果が直近のスタジオ作品にもライブにもダイレクトに反応されている。3人だけの世界からあのキラキラした色彩豊かな音色とハーモニーを生み出され、心も体もウキウキして幸せになってしまうグルーブが放たれる。こういう少年ナイフのバンドアンサンブルが、この日より一層輝きを放っていた。

 この日の選曲はランダムに少年ナイフ30年の歴史をからピックアップされたものであったが、それも充実したアンサンブルからくる自信にちがいない。心を捉える美しいメロディーの数々を、3人のそれぞれに美しく可愛い声で歌いこまれていく姿は、なさに初期の少年ナイフ以来の光景である。一時間半ほどのライブ、始まりから終わりまで起伏があって素晴らしかった。すべてよかったけれど、印象に残った曲の感想を少々。

 久しぶりに聞く「重力無重力」はやっぱり名曲/名演奏だった。演奏が始まると、あの印象的なコードがなおこさんのギターによってならされる。このコードの響きが本当に素晴らしい。この響きだけでこの曲が生き生きとして歌詞の持つメッセージを伝えてくれる。途中「だーけどーもたーまにーは」という転調する場面でのえみちゃんのドラムの運びが気持ちよく、「タカタカターン、タカタカターン」と打ち鳴らされるところがなにか曲そのものを讃えているかのような高揚感があって素晴らしかった。

 そして「マスコミュニケーション・ブレイクダウン」。この日最高のなおこさんのボーカルパフォーマンスだったような気がする。高いキーで「さーがせ、さーがせ君のためだけの音」というメロディアスだけど力強いフレーズを歌うなおこさんは緊張感とやさしさを同時に表現していて、涙が出そうに感動した。

 「アイスクリームシティ」昔少年ナイフのステージを見に行くと必ずこの曲が演奏されていたような記憶がある。もう何年振りだろうかこの曲を聴くのは。りっこさんが歌うとアイスクリームが更に甘くなったようでもあり、アイスの色が透明感を帯びたような感触をもたらせてくれる。甘い気持ちよさと裏腹にベースは重量感をもって鳴り響き、対比が気持ち良い。すべての曲にわたってアンサンブルの基調となるベースがメロディアスに動いて、しっかり解像度良く鳴り響くので、メロディーやリズムとの対比が鮮明で少年ナイフの併せ持つ2面性をいつでも最高度に引き出してくれる。

 「アニマルソング(動物小唄)」この曲の楽しさといったら。楽しい掛け声もグルーブも少年ナイフらしさでいっぱいだ。しかしなんでこんなシンプルな曲が楽しく美しく幸せに響き渡るのだろう。毎日でも聴きたい演奏。

そしてMy bloody valentineの「when you sleep」のカバー。あまりにも大好きだったスタジオレコーディングのバージョン。まさかライブで聴けるなんて!以前のブログで「ライブでこの精妙なコーラスを再現するのは難しいかも」などと失礼なことを書いてしまったが、なんと完璧に再現してくれた。しかも可愛らしい衣装に着替えて、振り付け付きで!。しかしマイブラの曲をモータウンに編曲し、振り付けしてダンシングなんて少年ナイフ以外この世の誰が思いつくだろうか。今年のマイブラの轟音ライブを見ていたので、目の前のスイートな世界との落差にびっくりした。コーラスは美しくてとろけるし、振り付けは楽しいわで(一緒に真似して踊ってしまった)、少年ナイフは天才的としかいいようがない。

少年ナイフワールドはこのような最高のエンタメと美しさ、カッコよさ、幸せなアトモスフィアに満ち溢れた最上級なライブ空間だ。次のライブはクリスマスまでお預けとのこと。待ちきれないなあ。素晴らしいライブをありがとう!

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2013年6月 6日 (木)

「James Blake / ジェイムス・ブレイク Japan Tour 2013」 新木場 studio coast 2013年6月5日

 凄かった!!素晴らしかった。久々に、レコード(CD)以上のパフォーマンスを堪能できたライブだった。もうこのライブで完全にやられてしまい、ジェイムスブレイクは私の今一番好きなアーティストのマイポケットに入れてしまった。ジェイムスブレイク待望の来日公演、前回見た恵比寿での初来日公演を一回りも二回りも上回る、スケールの大きなアーティストとなって日本に戻ってきてくれた。

前回の初来日公演は、周りの友人は絶賛していたものの、私はやや物足りなさを感じていた。デビューアルバムは、ダブステップ的な部分よりもむしろ、電子ゴスペル的で、内省的なエレクトロソウルな雰囲気が好きだったものだから、実際のライブに触れて、いかにもクラブ風というか、やっぱりこの人「ダブステップ」の人なんだなあと。あまりにも低音が大きすぎて、全体のバランスを崩すというか、レコードでは絶妙なバランスを保っていたものが、ライブだといかにもダブステップ風音つくりがなにか大味に思えてしまったように記憶している。もちろん声の素晴らしさは一瞬で焼き付いたけれども。

そのライブを経て、傑作の2ndOvergrown」が発表されて、「ダブステップ風アーティスト」から完全に脱出を果たし、類似のない「James Blake」というシンガーソングライターに移行していたのは本当にうれしかったし、CDも何回も聴いて「これは今年のベストかなあ」などと思っていた。しかし昨夜のライブはそのCDさえも上回り、ジェイムスブレイクのスケールが大きく、もはや突出したアーティストとしてカムバックしたといっていい。あの美しい声はますます磨きがかかり、エレクトロ機材を用いた声を重ねてのコーラスは荘厳な美しさを湛え、ライブを意識したアレンジはダンサブルかつポップ。新作で聴かせていた伸びやかなピアノのコードの響きも、いっそう美しく空間に解き放たれていた。あの重低音は相変わらず鳴り響いていたが、バランスを崩すことなく、むしろ歌との対比が身体に最高に気持ちよかったし、なによりも全体を通してドラマ性があり静かに熱く盛り上がった。終わって会場の出口あたりで抱き合いながら「本当によかったよ」と涙ぐんでいる2人のファンを見かけたけど、その気持ちが良くわかる。それくらい荘厳でドラマチックだった。

ライブの中で個人的に一番好きなポイントは重ねた声での「一人コーラス」である。この一人コーラス、声が美しい人だからこそできる技だけれど、自分でうたった歌をすぐに機材に取り込んで、その場でループさせ、さらにその上にまた生の歌を重ねていく手法によるコーラスの響きが、なにか教会でのオルガンによるバロック音楽のような美しさを出しているようで、響きの独創性を感じさせる。こういうテクノロジーを活用した一人コーラスはビョークや山下達郎さん、大瀧詠一さんなども得意とするところだが、彼らのコーラスのゆるぎなさ、力強さと比べるとジェイムスブレイクは独特の「ゆらぎ」とどこかに漂ってしまいそうな不安定さがある。この「ゆらぎ」や響きの感じが、なにか不安で欝な現代の心的心象と重なり合って聴こえてくる(もちろん不安だけでなくそれに対する癒しも含めて)。

あの3・11の後、ジェイムスブレイクしか聞く気がしないと書いていた評論家がいたけれども、そういう部分がたしかに彼のコーラスの響きにはある。今日は名古屋で、その後は大阪とまだツアーは続く。一人でも多くの人にこの素晴らしさに接してほしい。ライブの中で「何度も日本に来るよ」といっていたジェイムスブレイク。次はどんなスケールになってしまうのだろうか。もっと人気が爆発して、いっそのこと日本武道館あたりで堪能したい気もする。

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2013年4月25日 (木)

「MBV / My Bloody Valentine  マイ・ブラッディ・バレンタイン」 2013年2月作品

今思い出しても、今年の2月のマイブラッディバレンタインの来日公演は楽しかった。音楽的にも素晴らしかったし、会場全体にも熱気とユーモアが漂っていて忘れられないライブとなった。音楽雑誌に「彼らのライブはロックファンにとっての必須科目/通過儀礼」なんて書いてあって爆笑してしまった。たしかにロックファンのみならず、メディアも巻き込んでの一大ブームとなった感もあり、間違いなく今年のベストライブの一つに挙げられるだろう。

内容ももちろんよかったのだけれど、それと同じくらい楽しかったのが、ファン、メディアも一丸となっての音楽談義だったように思う。あのライブほど「ああ楽しかったね」で終わらずに、「あのノイズの質は何?」とか「あの爆音ってどんな意味が」とかリアルもネットも雑誌も含め議論が続いたものもないと思う。単にエンターテイメントを提供しただけでなく、音楽の楽しみ方を様々な角度から提供してくれたマイブラのライブ。なかでも話題になったのがあの「音量」だろう。

前代未聞の耳栓配布を経て、あのライブ以来、「爆音」とか「PAの限界値」みたいなことが盛んに言われ、さも爆音ノイズが正しいかのように扱われているけど、限界の爆音を鳴らしたことがマイブラのすごいことだったわけではない。あれを調子に乗って他のロックバンドが真似したら、うるさいだけで耐えられない。マイブラの音楽を表現するのに適切な音量を追求した結果があの音量だったのだろう。だからうるさいどころかひたすら気持ちがよかった(最後の20分は耳栓しましたが)。

さて、その素晴らしいライブとともに発表されたのが待ちに待ったこの新作。この新作でも早速、あちらこちらで議論を巻き起こしてくれている。今回は音量でなくてその「音質」。

「何、これデモ?」「マスタリングしてないんじゃないの?」「このプロダクションまるで迫力なし」「音圧低すぎ」などなど、絶賛の一方でこんな音質的な問題を疑問視する声もたくさんでてきている。CROSSBEST誌ではケヴィンのインタビューとともに「MBV」が実はものすごく手をかけたアナログ録音であり、時間をかけて丁寧に作りこんだ事実を提示していたのは画期的ではあったが、聴き手にとっては「これ何」とびっくりしてしまう自由もあるわけで、しばらくこの作品も賛否両論呼びながらも結局はみな、マイブラワールドに嵌っていくのだと思う。

私はもう大好きで何回も聴いている。家で聞くのだから当然ライブのような大音量などは望めないし、アナログ録音も生々しいといえばそうだけれど、「ラブレス」ほどの陶酔感・官能を呼び起こすようなサウンドにはなっていない。そんなことを差し引いてもこの「MBV」は最高に気持ちのいい仕上がりになっている。

この作品サウンドの謎や気持ちよさの源泉を探っていく作業も楽しいけれど、ある決定的な一点に誰もが気付く。そう、マイブラの凄さは音量もサウンドマジックもそうだけれど、作曲能力がもう他のロックバンドと圧倒的に違っているのだと。素晴らしい曲、コードの進行、なにより美しいメロディー(歌メロだけでなく、楽器で提示されるメロディーもひらすら美しい)。この一点だけで「MBV」は愛聴盤となりうるポテンシャルを持っている。

あのもごもごしたプロダクションや霞がかった音をどう評価するかは人それぞれだけど、ライブでのあの爆音を堪能したあとの空虚な感じを埋めてくれるには、この暖かくてやさしいサウンドはとても心地がいい。「ラブレス」は甘さに色気があり、官能的な美しさを提示してくるけど、「MBV」はひたすら甘い感じ。ゴオー、ゴオーとしたノイズがなんで甘く感じるのかは「曲の完成度の高さ」以外にもきっと何かがあるのだろう。でもそれを探求しすぎるとまた「マイブラワールド」にずっぽりはまってしまうので、この優しく甘い感じに包まれて、ただひたすらリピートしていよう。なるべく何も考えないように。

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2013年2月25日 (月)

「少年ナイフとDirty Projectorsを通して考えるカバーの魅力」

私が今一番好きなロックバンドの2つ、少年ナイフとDirty Projectorsが同時期に揃って魅力的なカバーを発表したのでそれを紹介したい。カバーは好きなアーティストを通して、自分の音楽の好みを広げられる可能性がある素晴らしい機会である。

それではまず少年ナイフ。少年ナイフがカバーしたのは先日の来日公演が忘れられないMy bloody valentineの不朽の名作「Loveless」から「When you sleep」。これは日本の様々なバンドが「Loveless」を一枚まるごとカバーするというトリビュートアルバム『yellow loveless』をいう企画ものからの1曲。最初この企画で少年ナイフがマイブラをカバーすると聞いたとき嬉しさ半分、大丈夫かな半分というのが正直な気持ちだった。なにしろ相手はあの「Loveless」。

これは、マイブラのケヴィンがとてつもない時間をかけて、演奏だけでなく、ダビング、ミキシング、音色、といったものにこれ以上動かせないというところまで追いつめた作品であって、レコーディングアートとしての凄味をもったものだから、アーティストが愛情をもってカバーしたからと言ってその良さを引き出しにくいのではと思ったため。要するにあまりにも細部に渡ってアーティストの目が行き届いた作品なので、他人の解釈を介在させる隙間がない作品との感じを受けていた。楽しくてハッピーな少年ナイフとの音楽性も接点が見つけにくかったのもある。しかしそんな心配を軽く吹き飛ばす傑作を少年ナイフは仕上げてきた。これは本当に凄いカバーだ。まずはこれを聴いて欲しい。

Shonen knife -
When you Sleep
http://www.youtube.com/watch?v=8jN8SII8ytI

しかし「When You Sleep」をモータウンに仕上げるなんて。。これほど卓越したアレンジで聴かせるとは恐るべしである。あの轟音マイブラがハッピーでスイートなガールポップなのである。なおこさんのボーカルは瑞々しくて、コーラスはどこまでも爽やか&スイート。ベース&ドラムのリズムは「恋は焦らず」じゃないけど、どこまでもウキウキで、キーボードの暖かい音色もこの極上のポップに花を添えている。可愛くてスイート、カラフルで楽しくてハッピーと完全に少年ナイフワールドなのだ。

でも良いカバーって、そのカバーしているアーティストの個性が感じられるものがいいのであろうか?私個人的には優れたカバーとは「ああこの曲っていい曲だなあ」と原曲の良さを感じさせてくれるものである。カバーしているアーティストの個性(悪いケースだとエゴ)ではなく、作曲者さえ驚くような原曲の良さを引き出し、遡ってその原曲を聴いてみたくなったりするのがもっとも優れたカバーのような気がする。この少年ナイフのカバーはその点が断然優れている。作曲者のケヴィンでさえ、自分の曲がこれほどスイートで美しいメロディーを持っていたと認識していただろうか?ただマイブラのファンは皆、「loveless」の曲の多くが美しいメロディーで彩られていることを知っている。そのメロディーは時にはドリーミーで時には官能的ですらある。だからこそ先日のあのライブ、とんでもない轟音であるにもかかわらず観客の女子率がとても高かったのだろう。

少年ナイフのカバーは、ケヴィンの楽曲の持つ美しさ、ドリーミーさを見事に射抜いている。私だけでなく、クロスビート誌の2月号でも『yellow loveless』の批評で少年ナイフの演奏は絶賛されていた。マイブラのメロディーの魅力をここまで引き出したのは、ワールドワイドを見渡しても少年ナイフだけではと。ちなみにCDで聴くとエンジニアの須田一平さんの冴えわたった技が堪能できる。声とコーラスのスイートさ、自然さを引き出すように丁寧に録音されている。ライブでここまで精妙なコーラスを再現するのは難しいだろうし、少年ナイフのライブでは使用しない楽器も使われているので、「Loveless」と同じように「レコード」ならではの傑作といえよう。

さて次はダーティープロジェクターズ。

Dirty Projectors – Climax (User Cover)
http://www.youtube.com/watch?v=J-_K-IbJYvE

ダーティープロジェクターズはアッシャーのカバー。これはもう聴いてもらうしかない。これまた凄すぎるカバーだ。ちなみに私はこのアッシャーの原曲を知らなかったので、このカバーに衝撃を受けて即アッシャーのCDを買ってしまった。原曲もとてつもなく美しく、こんな素敵な曲を教えてくれたダーティープロジェクターズに感謝。

このカバーは歌のメロディーはまったく崩さず、コーラスだけをアレンジしたもの。でもこのコーラスが天上もの。音楽の素晴らしさ、美しさがどこまでもシンプルに力強く迫ってくる。歌が生きているのがyou tubeの小さな画面からでも十分伝わってくる。

ナイフとダーティープロジェクターズのこの優れたカバーを聴いていると、むしろカバーにこそ、そのバンドの本質が露わになるのではと面白い発見をした気になって本当に楽しめた。

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2013年2月22日 (金)

「~2.16 渋谷ロック革命~ 少年ナイフ & bloodthirsty butchers」 2013年2月16日 渋谷WWW

少年ナイフ&ブッチャーズの共演が渋谷WWWであったので、ずいぶんと前から楽しみにしていた。結果予想以上の素晴らしさで、共演バンドの相乗効果があるイベントなんて本当に久しぶりだ。ナイフとブッチャーズが一緒に競演した曲が何曲かあって楽しいという意味だけでなく、それぞれのステージが異なるファン層にも共鳴しあうような響きがそこにはあった。

さて、ブッチャーズ、あのギターアンサンブルに轟音にもかかわらず気持ちよく体に音が染み入ってくる効果がある。不思議なギターアンサンブルである。2人のギターが一緒にコードをきれいに鳴らしているときは、和音の重なりがとびきりの美しさで迫ってくるのに、徐々にその和音を不明瞭にしていきフィードバックをかけてくる。ある種のノイズ効果を生んでくるけれどもそれさえもアンサンブルになっており、気持ちいい。これが行ったり来たりして大きな波を作ると完全にブッチャーズの構築音の世界。

ブッチャーズのクールな熱演が終わると、今年初めて見る少年ナイフのステージ。このライブの前に発表したmy bloody valentineの「when you sleep」のカバーも素晴らしく、少年ナイフは最高の状態にあることを裏付けてくれるものだった。このライブも結果終わってみれば、周りにいた多くのファンの方がここ「1-2年のベストのライブ」と言うくらい、楽しくて傑出した演奏だった。会場のWWWもステージも広く天井も高くて音響が良く、それぞれの楽器の持つ温度感、音触りが心地よく響く。

今日のイベントはロック革命というタイトルがついているけれども、サウンドもいでたちもそれ風のブッチャーズと比較するとナイフの音楽性はロックど真ん中で、楽しさ、エンターテイメントの要素を多く含んでいる。少年ナイフは、ロック的な激しい面とポップな面、パンキッシュなカッコいい面と可愛く華やかな面を両立させているところが魅力である。

この日の演奏はそういうナイフの魅力が十分堪能できた。象徴的だったのがなおこさんによると20年演奏していないという「工場の一日」。少年ナイフ初期の曲でなおこさんは「自身の反抗期的気分を反映したもの」のような(正確ではありませんが)曲の解説をしていた。この解説を聞くとまさに「パンク、革命」とイメージを持つかもしれないが、曲も演奏もポップ。ドラムス・ベースのグルーヴも素晴らしくて、レゲエ風味なノリを現代の感覚に蘇らせていた。昔ナイフの熱心なファンの方と会話したとき、その方が「工場の一日」が大好きで、「なおこさんの日本語がすごくきれいでその響きが好き」とのことであった。「日本語の美しい響き」が反抗期的精神の元で書かれたというのはなにも矛盾しない。それこそ少年ナイフなのだ。

ライブの中盤ブッチャーズの田渕さんが、飛び入りゲストで参加し、というかゲストでなく、ナイフの衣装を着て第4のメンバーとして3曲ほど演奏をしてくれた。この演出自体が最高で、ファンを喜ばせてくれるナイフ/ブッチャーズの気取らないエンタメ精神に感謝したい。もちろん演奏も最高で、コードもアンサンブルもシンプルかつ美しくカラフルなナイフの音の響きに、田渕さんは確かなテクニックと音響的なノイズの要素をもちこんで、少年ナイフがポップであっても、こういうノイズと共存する面をもったロックであることを示してくれた。アンコール最後は、両バンド一緒にステージに立ちラモーンズの「BlitzKrieg Bop」。凄い盛り上がり、大合唱で、演奏する側もファンも会場が一体になり大都会渋谷の一角がこんな光景になっているのがなにか不思議な気がした。

さて、近いうちに少年ナイフのマイブラカバー「when you sleep」について書いてみたいのでナイフファンは楽しみにしてください。これは大推薦なのでまだチェックしていない方はぜひ聴いてみて。

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2013年1月25日 (金)

2012年ロック/ポップス私の年間ベストアルバム

普段は年間ベストアルバムなんて考えもしないのだけれど、昨年は本当に素晴らしいアルバムが沢山あったので、忘備録のためとこのブログを読んでいる方への推薦ということで「私のロック/ポップス 2012年年間ベストアルバム10」というのを選んでみた。2012年は新人/中堅/ベテランそれぞれが渾身の作品を発表して個人的にはここ10年で一番活気のあるシーンのように感じられた。ロッキンオン社の渋谷陽一さんが「歌への回帰」のようなキーワードを挙げていたが、個人的にはものすごく共感して自分の好きなものが大体そのような傾向を持っていたのが偶然ではないような気がする。

1.Dirty Projectors / Swing Lo Magellan
2012
年ライブ/アルバムと最も好きだった洋楽ロックはダーティープロジェクターズだった。メディアの評価とかもよかったようで、ロッキンオンなどもこの「スイングローマゼラン」を年間ベスト2位に挙げていた。個人的にはこのバンド、レディオヘッド以来の衝撃で、今洋楽ロックでも最も好きなバンドはと問われると躊躇わずこのダーティープロジェクターズを挙げる。斬新だけど暖かくてナチュラル。難しいことをやっているようなのに知的楽しさよりも、体から染み出る快感。来月2月にまたもや来日を果たすようだ。もちろん私は何を差し置いても観に行きます。みんなも観に行こうよ、ダーティープロジェクターズ。オーディオ好きみたいな、いい音好きの人にも絶対のお薦めです。

2.Shonen knife / Pop Tune
少年ナイフのPop Tuneはここに挙げた10のアルバムの中でも最もポップなメロディーをもった楽曲が詰まっている。そしても最もシンプルなサウンドプロダクションで、バンドの持つ本来の楽器の音色・アンサンブル・グルーブを楽しませてくれるアルバムになっている。少年ナイフは一番単純なようでいて、奥の深さを感じさせてくれる。こういう楽器の音色・アンサンブル・グルーブはデジタルに回収されない(ミスみたいなものも含む)間や倍音があり、少年ナイフ独特の肌触りの良いサウンドを気持ちよく堪能させてくれる。ジャケットも録音も秀逸で、これもデジタルダウンロード時代に、パッケージ作品としての完成度を提示してくれて日本の至宝というべき存在だと思う。

3.Jack White / Blunderbuss
前にこの作品をブログに書いたとき、周りの友人が「地味」扱いしていたために、心配になって思いっきりプッシュして取り扱ってみたが、なんてことない世界的に最高度の評価を受けていた。どの雑誌も年間ベストに挙げていて、なーんだ私の周りだけだったのか地味とか言ってるのはと肩透かしにあった。そりゃそうだ、これ傑作だよね。

4.Bruce Springsteen / Wrecking Ball
誰だって真正面から政治のことなんか取り上げたくないだろうし、音楽と自分が持っている政治的意見は切り離したいというのが本音だろう。でもスプリングスティーンは「格差社会」あるいは「特定層による搾取」みたいな現状をあまりにも正面から取り上げて、それをなんともポップなロックに仕上げることに成功した。「レッキングボール」がフルシネマスクリーンで上映されるハリウッド映画のようだ。とにかく歌詞も曲もサウンドもプロダクションもスケールがどこまでも大きく、ひたすら高揚させてくれる作品だ。歌詞のテーマから直情的に作られた作品かと思われそうだが、実際には練に練ったサウンドとアルバム構成。どの曲も覚えやすく、構成がしっかりしていて、ソングライティングという観点ではずば抜けた実力を持っていることが一聴で分かる。カントリー/アイリッシュフォークなどを混ぜたサウンドとビッグドラムのような重たいビートサウンドの対比は11曲に物語を与え、スプリングスティーンならではの感動をもたらせてくれる。

5.The XX / Conexist
ファーストは正直、新時代の線の細いニューオーダーみたいな印象で世間の評価程のめりこむことはなかったが、このセカンドは本当に素晴らしかった。ボーカルの人は「え、これトレイシーソーン?」てくらい堂々として艶々した声を聴かせ確実にスケールアップしている。その気持ちのいいボーカルをサポートするのは、見事な音響マジック。すべての楽器が独特の音響加工を施され、それが繊細極まりないし、冷たくなくパーソナルな世界を丁寧に作り上げていく。これは本当にUKでしか出てこない音響ロックだと思う。

6.Frank Ocean / Channel Orange
フランクオーシャンのチャンネルオレンジはたぶん世界中の人が「こういうR&Bが聴きたかったんだよ」という作品だと思う。現代という時代を捉えたR&B。柔らかいソウルを今どきの人の心に届くようにそっと手を差し伸べたようなやさしさ。美しさ。マーヴィンゲイが現代テクノロジーで蘇ったような美しすぎるソウル。

7.Jake Bugg / Jake Bugg
一番驚いたのはなんといってもジェイクバグこの人。絶対ハイプだと決めつけてたけど、一回聴いただけで完全ノックアウトされてしまった。凄いのは100%ボブディランといっても過言でないほど、ディランスタイルのボーカル。まったくわるびれていない。若き日のディランの発見テープにだれかがバックに追加録音して編集したものといってもわからないくらい。でも私も大のディランファンだけど、本物のディランが昨年発表した「テンペスト」よりジェイクバグの方が好きだ。瑞々しくてたまらない。これカラオケで歌いたいよ。

8.Grizzly Bear / Shields
これもダーティープロジェクターズに負けないブルックリンの宝。しかしブルックリンシーンは世界最強だと思う。グリズリーベアもダーティープロジェクターズと同じで「どうしてロックバンドがこんな音楽的教養を持ってるのだろう」と驚かされるアレンジを施してくる。自分でオーケストラアレンジを作って、チェロもフルートももちろんエレキもこなし、奥行きのある、それでいて構築感もある緻密な建築物のような楽曲・演奏をしてくるのだから凄い。

9.Kendrick Lamar / Good Kid, mAAd City
ここ数年ヒップホップは完全に苦手分野で何を聴いても心からは好きになれなかった。「大ネタ」みたいなのもついていけなかったし、わからないものはしょうがないと腹をくくって、ヒップホップはほとんど聴くことのない生活だった。でもこのケンドリックラマーの作品は、全く自然に溶け込んできて、何度聴いても気持ちよく、大好きになった。ラップスタイルの威嚇ではなくいい意味での抑制感が表現され(ストイックということ)、それにとがってもいない、威張ってもいない、目立とうともしない、音響的に気持ちのいいサウンドが時にはキラキラとオシャレに、時にはひんやりとカッコよく展開し、ヒップホップ専門の人だけでなく、広くポップ好きの人が聴くべきハイファイサウンドとして推薦したい。

10.Tame Impala / Lonerism
エレクトロミーツ60年ロック=サイケみたいな作品だけど、ビートルズ風美メロがエレクトロサウンドにのって次々展開するのを聴かされると凡百のサイケバンドとは一線を画す、楽曲自体が素晴らしい作品なのだと思う。

ということで2012年ロック/ポップスのマイベスト10でした。

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2012年12月26日 (水)

「安室奈美恵 Namie Amuro 5大ドーム TOUR 2012 ~20th Anniversary Best~」 東京ドーム 2012年12月21日

安室奈美恵さん(以下安室)の東京ドームでのデビュー20周年コンサート、20年間に培った多様な表現と伝えたいメッセージがストレートに伝わる本当に素晴らしいコンサートだった。多くのファンが満足したのではないだろうか。

安室のライブはいつもコンセプトがしっかりしていて、ツアーごとにやりたいこと表現したいことがしっかり提示されるけれど、今回のコンセプトは非常に明快で「20周年をファンと一緒に(時にはファンの目になって)楽しんでみたい、それをドーム規模の空間で」というものだった。だからこそのいつもより一層華やかな演出、ファンが一緒に叫んだり、笑ったり、泣いたりできるような構成、ファンの投票を取り入れた選曲と、いったん決めたコンセプトを徹底的に展開して中途半端ゼロの、ファンと一体になった祝祭空間を作り上げていた。MCなしのノンストップ2時間半、歌とダンスの半端ない体力とスキルを求められるいつものNamie Styleはブレルことなく維持されたままで。

ところで安室が作りあげたアーティストとしての20年はどんなものだったのだろうか。私が初めて安室をライブで観たのは2001年なので、20年がどうだったかは正直わからないけれど、ここ10年がどのようなものだったかは感じ取れる。

まず安室が作り上げた大事なことは「ライブにおける表現力向上」だったと思う。安室といえば「ライブ」というのは今では誰でも共感できると思うが、安室は意識的にこのライブの世界を丹念に積み上げてきた代表的なアーティストと言えるだろう。CDが売れない時代に突入するなか、テレビ出演を控え、ライブに邁進する姿は同世代のアーティストと比較しても異質に映ったと思う。安室程のビッグネームが日本中の大きくもないホールをくまなく回る姿(私も市民ホールで何回かみたことがある)は、「自分はライブで最高のアーティストでありたい」という意思の表れだったのであろう。またアーティストとして、顧客の存在を要求し、同じ空間を共有することのよってこそ集中力が増したり、表現に磨きをかけることのできるタイプの表現者なのだと思う。

ライブと同様にこの10年積み上げてきたことはいうまでもなく、「歌とダンスの融合」である。歌やダンスでもっとうまい人もいる、でも歌とダンスを両方同時に表現できるのは安室奈美恵が一番になれる領域なのではという確信がこの10年、それこそ安室ファンを超えて、日本を超えて評価されてきたポイントであることは、間違いない。

そしてこの「歌とダンスの融合」は、さらに拡張されて「歌とダンス、でも可愛くてオシャレ」という領域まで作り上げてきた。「歌とダンス」を追求する人はアメリカのR&Bのアーティストの影響でタフで堂々としているというのが一般的な概念としてあり、可愛いとか女性的なオシャレは避けられるような傾向にあったとも思う。そこに安室は以前からファッション誌でたくさんオファーのあったような、オシャレさ、可愛らしさ、女性らしさといったモードを自身の歌とダンスにもちこんできた。「フィクション」と銘打ったツアーやアルバムでは、こういう「モード」を全開に打ち出して、「強くてカッコよくてぶれない安室」だけでなく、「やっぱり可愛い安室も最高じゃない」というファンの潜在的な欲求を見事具現化することに成功してきた。

このような安室のアーティストとしての歴史すべてを体感できたのがこの間の東京ドームでのライブだった。ライブでの安室の凄さはもちろん感じ取れただろうし、歌とダンスの融合は、それこそ「Uncontrolled」での新曲などで楽しめただろう。私は個人的には激しく、強く、カッコいい安室が大好きなので「Damage」とか「Yeah-Oh」「Let’s Go」などが最高に盛り上がった。20周年なのに新曲でバリバリ歌とダンスで攻めまくる姿が圧倒的だった。また「オシャレ、可愛いモード」も「Girl Talk」「New Look」などでドーム5万人の会場中の悲鳴が上がるほどのスマイルで堪能させてくれた。また観客も安室の表現の細部に渡って理解をしていて、どういうタイプの曲やアレンジをしても楽しむことができるという、ファンもとても素晴らしいなとも思った。

この日のライブも見て改めて感じたことは「エンターテイナー」として人を楽しませてくれる側面も素晴らしいが、やっぱり安室は音楽を通じて「心」に訴えるアーティストだと。20周年記念コンサート最高だったけれども、40周年、50周年と頑張ってほしい。素晴らしいライブをありがとう。

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