少年ナイフ 「Super Group」 2008年
少年ナイフの新譜「SuperGroup」が発売され、購入してから約一カ月経つけれど、未だに毎日聴いている。傑作とか感動とか考える暇もなくとにかく時間があれば聴いている。気持ちいいとしかいいようがない。「原点回帰」をテーマにしたというこのアルバム、3ピースでギター、ドラム、ベース以外の楽器なし、全編英語の歌詞というフォーマットで貫かれている。「原点回帰」というのは、もう一度3人編成のバンドにもどり(このアルバムからベースのりつこさんが加入)、少年ナイフの音楽的原点である洋楽の要素を持ったポップでロックをシンセサイザー等の楽器なしで演奏するというもの。
音楽的に一番影響をうけたというラモーンズやバズコックスのような音楽を「原点」とするわけでなく、あくまでも編成的なものとかバンドが3人に立ちかえったことを「原点回帰」としているようである。事実バンド結成当初には見られなかったロック黄金時代の70年代テイストが幾つかの楽曲ではかなり大幅に持ち込まれている。私はもう少年ナイフの大ファンなので、この作品を何度も聴いてしまうことがこの作品の素晴らしさなのか、少年ナイフならば何でもよい状態になっているのか自分でも区別できないのだけれど、ファンでない方にもこのあまりにも「気持ちがいい」ロックを多くの人に聴いてもらいたいと思っている。
今回のアルバムは基本70年代ハードロックテイストをベースにポップであったりイギリスカントリー風であったり、ウイングスの「Jet」のカバーありとバラエティに富んでいる。でもサウンドのイメージはかなりハードなロックに統一され、ポップでカラフルだった前作とはうって変わってアグレッシブな印象だ。誰が聴いても「ロックだなあ」と印象をもつそういうアルバムである。それでも少年ナイフの「ロック」は特別である。フォーマットは普通のロックだし、新しい方向性なんてものがあるわけではない。なのに少年ナイフがロックを演奏するとあたかも昨日ロックが生まれたかのように生き生きと新鮮に蘇る。ロックが新しかった時代なんてとっくに終わっているし、時代の先端表現でもない。「ロックは死んだ」なんていうフレーズももはや響かないくらいカウンターカルチャーとしての力も失っているし、3コードのフォーマットもそれを奏でるだけでは興奮できなくなってきている時代だ。でも少年ナイフの「Super Group」を聴いていると、ロックというフォーマットも演奏者次第で60年代や70年代の輝きをいつでも取り戻せるのだなと痛感した。
「Super Group」は何故この時代にロックに輝きを与えることができるのだろうか。たぶん1.メロディー 2.音色(歌声)3.アンサンブルにあるのだと思う。音楽の3要素がメロディー、リズム、ハーモニーとなるとしたらロックは何と言ってもリズムが中心になる音楽だと思う。でも少年ナイフの親しみやすさ、いつまでも続く感動、何度もリピートしたいと思わせる要素の筆頭はメロディーかもしれない。この新作でも全曲一回聴けば2回目からは一緒に歌えるというくらいシンプルで奥行きの深いメロディーが展開される。特に1曲目のタイトル曲のメロディーラインは凄い。今時これだけロック黄金時代に負けない輝かしく普遍的なメロディーを書けるソングライターは世界でも多くないのではないか。好き嫌いは別として、オアシスのノエルと匹敵すると言っても過言ではないと思う。
このアルバムは各楽器の音色、歌声の感触が素晴らしい。これは録音と表裏一体だから、アルバムのエンジニアリング、プロデュースとも大きくかかわるけれど、とにかく音が素晴らしい。ギターは高域をキラキラまき散らしながらも、ザクザクとした肌触りと奥行き感をもった厚みのあるサウンドを終始かき鳴らし、ベースはその低音に制限がないかのように下の下まで良く伸びる。ドラムはバスドラの一撃がスピーカーを響かせ、フレーズにダイナミクスと切れを与えている。歌もどこまでも軽やかで美しい。この何とも素晴らしい音色をデジタル時代、シンセサイザー時代に育った人たちもぜひ全身で感じて欲しい。
3人になって少年ナイフのアンサンブルは間違いなくネクストレベルへ移行したように思える。単調かつシンプルというわけでもなく(多くのパンクバンドのように)、3人が卓越した技術をぶつけあう(ポリスみたいに)わけでもなく、その中間。お互いが自由にテクニックを出して演奏しても、それが自己主張しあうのでなく、呼吸しあう柔軟なアンサンブル。だから音が固まりになって飛び出してくるわけでもなく、緊密すぎる構築感でもなく、暖かで気持ちよくて幸せな演奏。だからこそ何度もリピートしたくなる秘密がここにある。
またアルバムとして見ると構成も素晴らしい。ポップな「SuperGroup」で始まり、その後気持ちの良いハードロックが続き「TimeWarp」から一転、気持ちを落ち着けながら徐々に高揚していくような展開になり最後にまたもやポップな「Jet」で解放されるとやっぱり1曲目にもどりたくなる。I-Pod時代、アルバムを構成する要素で曲順を優れて構成することで感動を引き出すなんてことを考えるアーティストも絶滅しかかっているけれど、このあたりさすがである。またジャケットも実に丁寧な紙ジャケットで、原色を中心とした発色のノリもとても美しく手にとって聴くにふさわしいクオリティ。素晴らしい演奏、最高の録音、見事なパッケージング、「Super Group」こそ大人が聴く必聴のロックだ。
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